こんにちは。サポテックラグとメキシコ雑貨のお店ナダの山口です。

今日は、下記の本の紹介をしますね。メキシコってすげいってなります。では、どうぞ〜。

早川書房 |単行本(ハードカバー)|390ページ|2006年|¥2200(税込み)

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赤は心に響く

「紅一点」、「真っ赤な嘘」、「赤の他人」、「朱に交われば赤くなる」などなど「赤い色」を使った慣用句はよく使われる。「俺の目の黒いうちは~」、「他人の芝は青く見える」など他の色の慣用句ももちろん見かける。しかし、赤ほどは多くはないし、赤ほどインパクトを与える慣用句はないようだが、どう思われるだろうか?「情熱の赤」や「あいつはアカだ」と思想に関しても赤が使われるほど、我々の深層心理に深く結びついている。

 では、実際の「赤」という色はなんだろうか?何故、多くの人が赤い色に魅了されるのだろう?赤の起源は?

その答えの一つに、メキシコのオアハカ州が重要なエリアとなってくる。

本書は16世紀スペインやイギリスをはじめとする帝国諸国が赤の起源を持つメキシコ・中南米を舞台に「赤染料」を巡って略奪と騙し合いが繰り広げられる実話の物語となっている。

 

タイムスリップする「赤」

富と名誉を求め「赤」を奪い合う中世のヨーロッパ人達。

みなさんは、赤に慣れ浸しんでいて、もはや赤に何も思うことがないかもしれないが、この情熱の色が途方もない変遷と翻弄を繰り返してきたことに心を揺さぶられるはず。

この赤が西洋を虜にし、そのせいで赤を作り出した中南米の先住民が苦しめられた

 (ところで、我がショップ「ナダ」で一番力を入れている商品は、サポテックラグだ。ウェブショップでもその点を強く訴えているが読者の皆様には伝わっているだろうか?そう、サポテックラグこそメキシコを原産とする「赤染料」を使った世界に誇れる織物である。それは命をかけて断言する)

コチニールをふんだんに使ったサポテックラグ

その「赤染料」を「コチニール」という。大航海時代に、アメリカ大陸を征服したスペイン人(コンキスタドール)が今のメキシコ・グァテマラ付近で発見した。正確には、奪ったと言ったほうがいいのかな。このコチニールによって帝国諸国の人々が巨万の富を得た宝物と言える染料だったのだ。

(だから、コチニールを使った織物であるサポックラグの価値はもっと多くの人に知って欲しいと思いこの本を紹介したいのだが。自分たちの商品を宣伝したとたん、ページの離脱率があがるというデータがあるのでこの辺でやめておく)

 コチニールの科学的属性は?

 さてさて、コチニールとはなんだろう?

「人類史上もっとも完璧な赤の染料」と本書では断言している。

読み進めていくと納得である。通常、紙や繊維を染める染料は草木染に代表される植物を抽出した染料だったり、鉱物から科学反応させて作り出す化学染料が主流だ。しかし、それらは大抵色褪せしたり、毒性を持っていたり身近に使う染料としては不向きなのである。しかし、コチニールは違う。自然界から採ることが出来て、100年もの間色褪せることがない程耐久性がある。

最も興味を惹くことは、コチニールの正体は植物なのか化合物なのか虫なのか長い間謎に包まれていた点にある。何しろ、科学が発達した西洋でさえ、コチニールが発見されて以来、100年以上その成分はおろか正体さえわからなかったのだ。

ここに史上最も美しく完璧な赤染料が取れるなんて誰が思おうか?

答えを言ってしまうと、虫であり植物でもあり、化合物でもあると言える。(この本には書いていないが私はそう思っている)。化学的には「虫」。つまり、サボテンに寄生するカイガラムシという虫を乾燥させエタノールや水で抽出したもの」としている。しかし、原料は、虫。しかし、サボテンに寄生する虫だから植物から採れる染料とも言えなくもない。サボテンも必要だし、化合させることも必要だからだ。

コチニールをすり潰し赤染料を作っていくイサック・バスケス
コチニールにレモンを加えるとピンクになり、調合次第で紫色も作り出せる

 

コチニールの生物学的な特徴を本書は下記のように説明している。

「コチニールは全て寄生虫だが、食害をもたらすのは主に雌である。ほとんど一生を食べて過ごすためだ。放っておけば宿主が干からびるまで吸い尽くす。サボテンにとっては幸いなことにコチニールにはたくさんの天敵がいる。主な敵は、地虫、芋虫、蟻など多数の無脊椎動物である。

(中略)

これは強力な赤い染料なのだ。コチニールの雌を潰すと、血のように赤い液が溢れ出る。

それを触媒材処理した布池につけると、その赤い色は何百年も残る。最古の者は、2000年前にペルーのでコチニールが染み込んだ布が見つかったという。」(p58-59)

 

大航海時代を経て化学が勃興し始めたヨーロッパでは科学者達が必死に「完璧な赤」を作り出そうとしていたが。が全て失敗に終わったようだ。一方、メキシコ・中南米では遥か昔に「完璧な赤」が存在していたというからすごい。

 

金銭的にも精神的にも価値の高い「赤」

中世スペインやイタリアで繰り広げられたコチニールをめぐる争いも面白い。世界史を勉強したことがある人なら、スペイン王であり神聖ローマ皇帝でもあカール五世はご存じなのではないだろうか。16世紀ヨーロッパの王とも言われ、宗教改革でルターと戦ったり、大航海時代を指揮するなど歴史上の重要人物だ。そのカール五世がメキシコを征服したコルテスからもてなされる中で献上されたものがヨーロッパでは見たこともない完璧な赤染料、「コチニール」だったのである。彼は、コチニールでスペインの財政を立て直したほど。その後、コチニールは、スペインからイタリアやイギリスなどヨーロッパ各地に広がっていく。

 

わずかなカイガラムシをすり潰し精魂込めて染料を作る気の遠くなる作業
羊毛をその染料で染めていくティオティトラン村の風景

イタリアでは1300年代から繊維産業が盛んで特に中世のヨーロッパにおいて「赤」は、殉教と勇気、王家の血を意味する色だった。王族しか身に付けることができない色として重宝されていた。ちなみに、ヘブライ語でアダムとは「赤」のことを意味するらしい。それでも、16世紀にコチニールがメキシコから伝わるまで、赤色は赤い花、オーカーという顔料は茶色に近い濁った色だっと言うし、辰砂は高価の上、毒性もあった。変色や安全性、価格などの面でヨーロッパには良い赤がなかったのである。

 

科学の進歩でコチニールの衰退

征服が得意な西洋は、植民地の赤をさらに活用すべく科学技術を駆使していく。原始的な製法で作る赤はとうとう1870年代のドイツ人科学者によって発明された赤色染料アリザリンに取って代わられる。相対的にコチニールの衰退が始まる。近代技術では洗濯しても色褪せない赤染料が科学で量産できるようになった。しかし、それでもメキシコでは今も昔も脈々と原始的な方法で完璧な赤を作りだしている。たとえ、効率的ではなくても。

「完璧な赤を使ったラグよ」と自信たっぷりで話すバスケス氏の妹さん

 

この書評についてのお詫び

この本は、メキシコが主題ではなく、あくまでも「赤」色をめぐっての世界各国の覇権争いを歴史を通じて伝えた本ではあるが、私の紹介がかなりメキシコよりの内容になってしまった。

しかし、みなさんは、赤の発祥はメキシコを中心とした中南米であり、その伝統は今でも引き継がれていることはおわかりいただけたのではないだろうか?

著者は、古代のコチニール生産の中心地だったオアハカの輸出量は大きく減少したとしながらも

「オアハカに古くから伝わる織物工芸に新風が吹きこまれ、つぎの世代へと受け継ぐことができた。1960年代、テオティトラン・デル・バジェ出身の織り手、イサーク・バスケスのような数名の職人たちが、昔の技法をよみがえらせようとした。ウールをコチニールやテフアンテペク産のインディゴ藍、苔類から採った染料、アカシアの木など、自然素材でそめたバスケスの織物は世界中に買われていった」(p309)

と書いてある。「あ〜、あのバスケスさんのことが書かれている。やっぱりすごかったんだ」と思うと同時に、

安心安全の赤染料がサポテックラグに使われていることが伝われば本望だ。

我々日本人は、もっとコチニールを身近に感じる生活をしてみてはどうだろう、と思うのであった。